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労務費の価格転嫁に関する中小企業庁ガイドラインと取適法の関係

公開: 2026年8月26日

人件費の上昇が続く中、 中小企業庁は労務費の適切な価格転嫁のための 価格交渉に関するガイドラインを公表しています。
発注側企業としては、 このガイドラインの内容が取適法上の買いたたき規制と どう関係するのかを理解しておく必要があります。 今日は、両者の関係について整理します。 価格交渉を「面倒な要求」として片付けてしまうと 後々大きなリスクにつながりかねないため、 発注側の姿勢そのものを見直す機会として捉えることが重要です。

1. 労務費価格転嫁ガイドラインの概要

1-1. 策定の背景

最低賃金の上昇や人手不足による賃上げ圧力が続く中、 発注側企業が労務費上昇分の価格転嫁に応じないことが 社会的な課題として指摘されてきました。
このガイドラインは、 労務費の価格転嫁について発注者・受注者双方が 望ましい対応を取れるよう指針を示すものです。 背景には、価格転嫁が進まないことで 中小企業の賃上げ原資が確保できず、 人材確保が一層難しくなるという構造的な問題があります。

1-2. 発注者に求められる行動

ガイドラインでは、 発注者側が定期的に価格交渉の場を設けること、 受注者からの価格交渉の申し出を拒まないことなどが 望ましい行動として示されています。 年に1回程度の交渉頻度が一つの目安として 示されているケースもあり、 自社の交渉サイクルを見直す際の参考になります。

1-3. 労務費上昇の根拠資料

受注者側が労務費上昇を理由に価格交渉を申し出る際は、 最低賃金の公表資料等、 公表資料を根拠として使うことが推奨されており、 発注者側もこうした根拠の提示に対して 誠実に対応することが求められます。 受注者側から根拠資料が提示された場合に 内容を確認もせず一方的に拒否する対応は、 誠実な協議とは評価されにくい点に注意が必要です。

2. 取適法の買いたたき規制との関係

2-1. 買いたたきとは

取適法では、 通常支払われる対価に比べて著しく低い額を 一方的に定める行為を買いたたきとして禁止しています。
価格交渉の申し出を無視したまま 従来の単価を維持し続けることは、 買いたたきの評価要素の一つになり得ます。 重要なのは価格を下げなかったことそのものではなく、 交渉のプロセス自体を放棄していないかという点です。

2-2. ガイドラインは買いたたき規制を補完する

ガイドライン自体は取適法とは別の行政指針ですが、 「発注者が協議に応じたか」という行動が 買いたたき該当性の判断における 重要な考慮要素として位置づけられている点で、 両者は密接に関連しています。 ガイドラインを読んだことがない発注担当者であっても、 「交渉に応じる姿勢」が実質的に求められている という理解だけは持っておくべきです。

2-3. 労使双方向けの周知徹底

価格交渉を促進する動きは、 取適法・独占禁止法双方の運用強化とあわせて 進められている面があるため、 発注側企業には両方の観点からの対応が求められています。 業界団体によっては 独自の価格転嫁促進の取り組みを進めているところもあり、 自社が属する業界の動向も確認しておくとよいでしょう。

3. 発注側企業が取るべき対応

3-1. 定期的な価格協議の場の設定

年に一度など、 定期的に発注先との価格協議の機会を設けることで、 価格交渉の申し出を拒んでいるという評価を避けやすくなります。
価格協議・申出記録の残し方はこちらも参照してください。

3-2. 協議記録の作成

価格交渉の申し出があった日時、 協議の内容、結論とその理由を記録しておくことで、 後から誠実に対応したことを説明できるようになります。 記録がないと、後に監督官庁から調査を受けた際に 「協議に応じていた」ことを立証できず、 不利な評価を受けるリスクが高まります。

3-3. 労務費上昇分の反映方針の社内周知

発注担当者が個人の判断で 価格交渉を打ち切ってしまわないよう、 労務費上昇への対応方針を 社内で明確にし、周知しておくことが重要です。 現場の担当者が独断で 「これまで通りの単価で」と回答してしまわないよう、 判断のエスカレーション先を決めておくとよいでしょう。
社内研修・周知の進め方はこちらも参照してください。

4. 実務上のよくある誤解

4-1. 全額転嫁が義務というわけではない

ガイドラインは価格転嫁の要請に応じることを促していますが、 受注者の申し出額を全額そのまま受け入れることが 法的に義務付けられているわけではありません。
重要なのは、協議のプロセスを誠実に行うことです。 自社の経営状況を踏まえた上で、 一部だけでも転嫁に応じるといった 現実的な落としどころを探る姿勢が求められます。

4-2. 一度対応すれば終わりではない

労務費の上昇は継続的に発生するため、 一度価格見直しに対応したからといって、 その後の協議に応じなくてよいわけではありません。 毎年の最低賃金改定のタイミングに合わせて 定期的な見直しの機会を設けることが、 継続的な対応の負担を平準化することにもつながります。

4-3. 中小企業同士の取引でも対象になり得る

大企業と中小企業の関係だけでなく、 取適法の資本金基準を満たす中小企業同士の取引でも 同様の考え方が当てはまる場合があります。 「相手も中小企業だから大丈夫」という思い込みは 資本金基準の該当性判断とは別の話であり、 個別に確認する必要があります。

よくある質問

Q. ガイドラインに違反すると罰則がありますか?

ガイドライン自体に直接の罰則はありませんが、 ガイドラインが示す行動基準に反する対応が 取適法上の買いたたきと評価されれば、 勧告等の対象になり得ます。 ガイドライン違反そのものよりも、 その背後にある取適法・独占禁止法上の問題として 扱われる点を理解しておく必要があります。

Q. 価格交渉の申し出は口頭でも有効ですか?

口頭での申し出も有効ですが、 後日の記録として残すためには、 メールや議事録など形に残る方法で 補足しておくことが推奨されます。 口頭のやり取りだけに頼ると、 後日「言った・言わない」の水掛け論になりかねません。

Q. 価格交渉に応じられない場合、何を伝えればよいですか?

単に「対応できない」と伝えるだけでなく、 対応できない理由や、 代替的な対応(発注量の調整等)を 誠実に説明することが望ましいとされています。 「できません」の一言で終わらせず、 なぜできないのかの背景まで共有する姿勢が信頼関係を保ちます。

Q. このガイドラインは今後変わる可能性がありますか?

価格転嫁を促す政策的な動きは強まっている傾向にあるため、 内容の更新や関連制度の見直しが 今後も行われる可能性があります。 最新の公表情報を確認することをおすすめします。

まとめ

労務費価格転嫁ガイドラインは、 取適法の買いたたき規制の解釈・運用と密接に関わっており、 発注者が価格交渉に誠実に対応したかどうかが 評価の重要な要素になります。
定期的な協議の場の設定と記録の作成を通じて、 誠実な対応の実績を積み重ねていくことが重要です。 価格転嫁への対応は短期的にはコスト増に見えても、 長期的には安定した発注先の確保につながるという 前向きな視点も持っておきたいところです。
本記事は運用の観点整理であり、法的助言ではありません
個別の判断は専門家にご確認ください。

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