着手金・前払金— 台帳記録
公開: 2026年9月2日
システム開発や制作委託では、契約締結時や工程の中間で着手金・前払金を支払うケースが珍しくありません。
取適法上、前払いそのものが禁止されるわけではありませんが、支払期日・検収・残金支払の記録方法を誤ると、60日ルールや紛争リスクにつながります。
本記事では、着手金・前払金の位置づけと、発注台帳への記録方法を実務目線で整理します。
トリカク(torikaku) は発注書面・受領日・支払期日を台帳で一元管理し、分割支払ごとの超過リスクを可視化します。
1. 着手金・前払金の位置づけ
1-1. 契約の一部としての前払
総報酬100万円のうち30%を着手金、残70%を最終検収後に支払う——このような分割支払は、業務委託でよく見られる設計です。
着手金は「まだ成果物がない段階での支払」であるため、受託側の信用リスクをヘッジする一方、発注側は履行未了の状態で資金を先に出す構図になります。
契約書では、着手金が総報酬の何割か、残金の支払条件、キャンセル時の精算方法までセットで書いておく必要があります。
1-2. 経費立替・材料費の前払
イベント施工や製造委託では、受託側が材料を事前調達するため、材料費相当を前払するケースがあります。
この場合、材料費と制作費を契約上で分け、それぞれの支払タイミングを明記します。
材料費だけ前払いし、制作費は検収後——という二層構造にすると、台帳上も行を分けて管理しやすくなります。
1-3. 4条明示での支払スケジュール
取適法第4条では、報酬額・支払期日・支払方法等の明示が求められます。
分割支払の場合も、各回の金額と期日(または条件)を発注書面に書く必要があり、「着手金あり・残金は検収後」だけでは不十分です。
記載事項の型は記載事項のテンプレートをベースにすると漏れが減ります。
2. 60日ルールとの関係
2-1. 各支払の起算点
着手金は、契約で定めた支払期日(例:契約締結後7営業日以内)または条件成就時に支払います。
受領前の支払であるため、60日起算の「受領日」は通常、残金側に適用されます。
60日の数え方の基本は支払60日ルールの起算点を参照してください。
2-2. 中間検収と段階払い
工程ごとに30%・40%・30%と段階払いする場合、各段階に検収・受領日を設けます。
中間成果物の受領日を台帳に記録しないと、2回目以降の支払期日が計算できません。
段階納品の設計は段階納品と部分検収も参考になります。
2-3. 前払後のキャンセル・中途解除
前払い後に契約解除となった場合、既提供分の対価・未提供分の返金条件を契約書に明記しておきます。
口頭で「返す」と約束しただけでは、後日争点になりやすいです。
解除の事前予告は中途解除の事前予告も合わせて確認してください。
3. 台帳の記録方法
3-1. 1契約を分割行で管理
1契約を「着手金行」「中間金行」「残金行」に分けるか、内訳列(支払区分・金額・期日)を設けます。
1行に総額だけ書くと、前払済みかどうかが経理・発注で共有しにくくなります。
台帳運用の基本は発注台帳の運用を参照してください。
3-2. 支払ステータスの設計
未払・前払済(一部)・完済の3段階ステータスを固定し、振込実行日で更新します。
前払済みなのに残金の期日アラートが出ない、という抜けを防ぐため、行ごとに期日を持たせます。
3-3. 請求書との突合
前払請求と完了時請求は、請求書番号を台帳行に紐づけます。
同じ契約番号で請求が2回来ても、どの分割に対応するかが一目でわかるようにします。
4. リスクと防止策
4-1. 前払のみで成果未納
着手金を払った後、納期を過ぎても成果物が届かない——このとき、契約上の解除・損害賠償条項と、実際に支払った前払金の記録が重要になります。
マイルストーン検収をセットで設計し、「前払い=第1マイルストーン完了後」という条件付きにするとリスクが下がります。
4-2. 残金の一方的減額
成果物に不満を理由に、残金70%だけ減額する要求は、取適法の減額禁止・買いたたき規制の観点から慎重に扱う必要があります。
減額・値引きの整理は減額・買いたたきを参照してください。
4-3. 遅延利息の監視
残金の支払が60日を超過した場合、遅延利息の議論が生じ得ます。
分割支払ごとに期日超過を監視し、前払い済みで残金だけ遅れている案件を週次で一覧化します。
遅延利息の概要は遅延利息の支払義務も確認してください。
5. 実務シナリオ:Web制作の3分割払い
5-1. 契約設計の例
Webサイト制作100万円を、契約時30万・デザイン確定時40万・公開検収時30万と分割するケースを想定します。
各段階の完了定義(デザイン確定=クライアント承認メール、公開検収=本番URL引き渡し)を別紙に書きます。
5-2. 台帳への入力例
取引先A・契約番号2026-001の下に3行を作成し、それぞれに受領日・支払期日・ステータスを持たせます。
第1段階の30万を振込したら、第1行を「完済」、第2行を「未払・期日○月○日」に更新します。
5-3. 発注前チェックリスト
分割比率・各回の支払条件・キャンセル時精算・検収基準が発注書面に含まれているか
台帳で行分割できる設計になっているか
経理の前払金仕訳ルールと突合できるか
発注コンプライアンスのチェックリストも併用してください。
よくある質問
Q. 前払50%は多すぎますか?
業界・案件規模・受託側との関係によります。初取引で50%前払は発注側リスクが高いため、マイルストーン付きの30%程度から始める発注者も多いです。双方の合意と書面記載が前提です。
Q. 着手金にも60日ルールは適用されますか?
着手金は契約で定めた支払期日を守る必要があります。受領日起算の60日は、通常は検収後に支払う残金・段階金に適用される考え方です。各回の期日を台帳で別管理してください。
Q. 前払後に受託側が倒産した場合は?
契約上の返金・精算条項、支払記録、履行状況の証拠を整理します。個別の法的対応は専門家に確認してください。台帳に前払日・金額・請求書番号を残しておくと後続対応がスムーズです。
Q. 残金を留保(保留金)すべきですか?
品質リスクヘッジとして10%程度を検収後一定期間留保する設計はあります。留保金の解放条件・期日を契約と台帳に明記し、本体とは別行で管理します。
Q. 口頭で前払いを合意した場合は?
口頭合意だけでは後日争点になりやすいです。メールまたは変更覚書で追完し、発注書面に反映してください。電子契約の場合も交付・確認記録を残します。
まとめ
- 着手金・前払金は分割支払として4条明示し、各回の金額・期日・条件を書面に書く
- 60日起算は通常、検収後支払の残金・段階金に適用。着手金は合意期日を守る
- 台帳では行分割・ステータス・請求書番号で前払と残金を区別する
- 残金の一方的減額は買いたたきリスク。マイルストーン検収とセットで設計する
6. 経理連携と前払金仕訳
6-1. 前払金科目の計上
着手金を支払った時点では、多くの場合「前払金」「仮払金」等の資産科目で計上します。
最終検収時に費用科目へ振替えるルールを経理と事前に決め、台帳の検収日入力を仕訳トリガーにします。
会計ソフトと発注管理の分担も参照してください。
6-2. 電子契約・書面保管
分割支払条件を含む契約PDFは、取引先フォルダと台帳行から相互参照できるよう保管します。
書面の保存形式に沿い、電子交付の場合も交付日・確認方法を記録してください。
注意
本記事は取適法・フリーランス新法に関する一般的な情報の整理であり、トリカク(torikaku) の機能説明を含みますが、法的助言ではありません。
個別の契約内容・取引実態については専門家にご確認ください。